読書録

Friday, February 29, 2008

大学という病―東大紛擾と教授群像 竹内 洋(著)

「大学の自治」の正体

戦前から戦中にかけての東大経済学部の歴史を扱ったもの。法学部からの独立を果たした直後から派閥抗争に明け暮れ、遂には当局の介入を誘発して崩壊していく過程が、豊富な資料に基づき丹念に描かれる。そこから浮かび上がるのは、「教授会による自律的人事」という大学特有の制度のガバナンスシステムとしての不全性であり、また、実質としての研究・学問を犠牲にしてでも形式としての自治を守ろうとする大学人の救いがたい体面主義である。著者の他の著作と同じように、文章や分析に何とも言えない味わいがあり、単純に読み物として面白い。

Monday, February 25, 2008

モテたい理由 赤坂 真理 (著)

語るな論じろ。

タイトルと帯に魅かれて購入したが、大ハズレ。得るところは何もなかった。本書の男女論は酒井順子や小倉千加子がこれまで散々言ってきたことの焼き直しにすぎず、しかも洞察や分析の鋭さという点で、彼女らの著書に遠く及ばない。雑誌のキャッチコピーを継ぎ接ぎしたかのような纏まりのない文体は、読む者の意欲を萎えさせる。そして本書終盤で突如語られ出す体験談は、読者の共感に甘えているのだろうが、私には論旨不明であった。著者紹介によれば著者はこれまで何冊かの「小説らしきもの」を書いてきたとのことだが、本書も著者にとっては「社会評論らしきもの」なのだろう。無分類ゆえの無責任といったところか。近年新書が粗製濫造気味なのは知っていたが、講談社現代新書のような老舗でもそうとは知らなかった。本書から私が得た唯一の知見である。

Thursday, February 21, 2008

丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム 竹内 洋 (著)

傑作

著者の本はどれも面白いが、私の主観では本書がベスト。巧みな構成、豊かな表現、鋭い分析。読み手を引き込む力がある。幅広い世代の読者への目配りで、ある人には懐かしく、ある人には新鮮に読めるのではないか。丸山眞男の著書を読んだことがなくても問題なく理解できるが、「日本の思想」と「現代政治の思想と行動」くらいを読んでいると、ヨリ一層面白い。

Monday, February 11, 2008

日本の思想 丸山 真男 (著)

雑感2点

既に多くのレビューが書かれているので、ここでは2点だけ雑感めいたことを。

1点目は、昔の新書は難しかったのだなぁということ。最近の新書はすっかり雑誌化していて、平易な反面で内容の薄いものが大半だが、本書、特に第 1章と第2章は、その抽象度の高さと論理展開の複雑さという点で、手加減無しに難解である。一読了解できる人がいるとすれば、相当頭のいい人に違いない (私には到底ムリ)。1961年の初版以来、80刷を超えるロングセラーとなった本書だが、読者のうち少なくない部分は、実は第3章と第4章の講演部分し か理解していないのではないかという疑いを抱かずにはいられない。

2点目は、丸山真男の釣り師性ということ。「あとがき」に書いてあるが、本書第1章の一部記述は、当時の文学者の神経をひどく刺激したらしい。と いうのも、(おそらくは東大を念頭に置いて)文学部出身者の法学部出身者(典型的には官僚)への劣等感が、日本文学の「抽象的・概念的なものへの生理的嫌 悪」を生んでいると論じたからである。本書に限らず、丸山の著書には他人のコンプレックスを逆撫でするような記述が最低一箇所は含まれている。洞察力鋭敏 な丸山が気付かずやっているとは到底思えないので、きっとわざとなのだろう。いや、間違いなくわざとだと思う。

Tuesday, February 05, 2008

自由はどこまで可能か―リバタリアニズム入門 森村 進 (著)

手堅い入門書

私見では、邦書で唯一の、「まっとうな」リバタリアニズムの入門書。リバタリアニズムの立場からの典型的主張について丁寧な整理がなされるとともに、著者自信の考え方も緻密に展開されている。限られた紙幅ながら、全体に、過不足のない手堅い記述である。筆致も適度に冷静で、政府の介入を最小限に抑えるリバタリアニズムの思想に必ずしも共感しない人であっても、特に感情的反発を抱かずに読み進めることができる。

ただ、どうしても引っかかる点が一つ。国立大学教授としての著者の立場と、リバタリアンとしての著者の思想とはどのように整合するのだろう?制度の合理性と制度に従うことの合理性は別だということだろうか?どこかで説明があるのかと思いきや、結局最後まで何の説明もなく、何とも不思議な感じが残った。