読書録

Wednesday, June 03, 2009

個人情報保護法の逐条解説 宇賀克也 (著)

残念。

オビに「法が本来保護すべき『個人情報』とは?」と大書してあるので、個人情報の本質について類書とは異なる立ち入った考察があるのかと期待して読んだ が、通り一遍の解説のみ。電話番号、会員番号等の番号にも個人識別性があるとしつつ、メールアドレスは一般的には個人識別性を有しないとする等、結論先に ありきであまり腑に落ちない内容。オビの宣伝文句は編集者が適当につけたもので、著者に責任はないのだろうが、残念である。

Thursday, April 09, 2009

動物からの倫理学入門 伊勢田哲治 (著)

倫理学入門書の決定版

英米系倫理学は学者の占有物にしておくのはもったいないほど面白い分野だが、これ
まで、日本語で読める適当な入門書がなかった。加藤尚武「現代倫理学入門」や川本
隆史「現代倫理学の冒険」といった本があるにはあったが、いずれも幅広いトピック
を一冊に凝縮しようとするあまり、各項目の説明が舌足らずになっているきらいが
あった。この点本書は、各トピックをきちんと噛み砕いて解説してある。主題の抽象
性ゆえ一読了解とまではいかないが、「知らない人に分からせよう」という著者の意
欲・工夫が随所に感じられる。

それでいて、扱っているトピックは、実はけっこう幅広い。認知主義VS非認知主義
といったメタ倫理学の問題から、功利主義VS義務論といった規範倫理学の問題、
ロールズやノージックに代表される政治哲学、それに社会的選択論や厚生経済学と
いった隣接分野の議論まで、入門書として必要なトピックはほぼ網羅している。これ
だけ幅広いトピックを扱いつつスケッチーな印象を与えないのは、著者独特の親しみ
やすい語り口の妙だろうか。

他方本書は、近時欧米で活発に議論されている動物権利論の入門書という側面も持っ
ている。上に挙げたような倫理学の抽象的論点と、動物実験の是非、肉食の是非と
いった動物権利論の具体的論点とをいったりきたりすることで、倫理学の方法である
ところの「往復的均衡」を読者に体感してもらおう、というのが本書の企図である。
一部にやや我田引水的な説明も見られるものの、倫理学の抽象理論を動物権利論の論
点への適用を通じて具体的に考察するという試み自体は、概ね成功しているように思
う。

ただ、気になる点がひとつだけ。日本では、動物実験の廃止や肉食の廃絶が、現実社
会のシリアスな議題になり得ると考える人は少ないと思う(実は私自身、本書を読ん
だ今でも、これらの論点は数多ある社会問題の中ではきわめて優先順位の低いものだ
との印象を捨てきれないでいる)。こうした中で、入門書の応用分野として動物権利
論にフォーカスすることは、初学者に与える教育的影響という観点から見た場合、倫
理学の問いの切実さに疑念を与える結果とならないだろうか。倫理学の議論に知的パ
ズルとしての魅力があるのは確かだが、他方で、倫理学が現実離れした学者の知的遊
戯であるとの印象を読者に与えるのは、著者の本意ではあるまい。こうした側面への
何らかの配慮があれば、もっとよかったのに、と思う。

とはいえ、綜合的に見て、日本語で読める倫理学入門書としては現状では本書がベス
トであるとの認識に変わりはない。誰かから倫理学の適当な入門書はないか聞かれた
ら、今後は迷わず本書を薦めることにしたい。

Sunday, November 23, 2008

教科書あれこれ

1日1章を目安に精読

渡辺「ゼミナール・ゲーム理論入門」
Mankiw「Principles of Economics」
梶井・松井「ミクロ経済学―戦略的アプローチ」
野矢「論理学」
道垣内「ゼミナール・民法入門」
平野「刑法概説」

Sunday, November 09, 2008

考えることの科学 市川伸一(著)

入門書かくあるべし。

人は論理学の法則のとおりに思考する訳ではないし、統計学の法則のとおりに推測する訳でもない。論理学や統計学はむしろ、人の推論を事後的にチェックし、正当化するためのものだ。論理学や統計学の法則と、人の直観的推論の間には「ギャップ」がある。この「ギャップ」を素人でも理解できるように丁寧に解説したのが本書である。

本書は、論理学や統計学から外れた人の直観的推論を単なる「間違い」として切り捨てるのでもなければ、「本当は常に合理的」なものとして絶対化するのでもない。独自のルールを備えた探究対象として捉えつつ、同時に適切な解説が与えられれば変更可能なものと捉えている。そこに開けるのは教育への応用可能性である。

実はそれほど期待せず読み始めたのだが、驚くほど面白かった。入門書かくあるべし、新書本かくあるべしと言いたくなる。著者の文章の巧みさも特筆すべき点である。

Saturday, October 25, 2008

政治哲学速習コース(暫定)

・伊勢田哲治「動物からの倫理学入門」
・井上達夫「共生の作法」
・黒田亘「行為と規範」
・キムリッカ「現代政治理論」
・中山竜一「二十世紀の法思想」
・佐伯胖「きめ方の論理」

・ロック「統治論」(中央公論社)
・ルソー「社会契約論」「人間不平等起源論」(光文社)
・カント「道徳形而上学の基礎づけ」(以文社)
・ミル「自由論」(光文社)
・マルクス「共産党宣言」「賃労働と資本」(岩波書店)
・プラトン「国家」(岩波書店)

・ロールズ「正義論」
・ノージック「アナーキー・国家・ユートピア」
・ドウォーキン「権利論」
・セン「集合的選択と社会的厚生」

後は気の向くままに

分析哲学速習コース

ラッセル「哲学入門」

飯田隆「言語哲学大全Ⅰ~Ⅳ」

野矢茂樹「論理学」

・デカルト「省察」「哲学原理」
・バークレー「ハイラスとフィロナスの3つの対話」
・ヒューム「人間知性研究」
・カント「プロレゴメナ」
・プラトン「国家」「テアイテトス」

・野矢茂樹「『論理哲学論考』を読む」
・野矢茂樹「心と他者」
・ヴィトゲンシュタイン「論理哲学論考」
・黒田亘「経験と言語」
・黒田亘「知識と行為」

・クワイン「論理的観点から」
・クリプキ「名指しと必然性」

後は気の向くままに

Friday, October 24, 2008

国家(上・下) プラトン(著)

極論のオンパレード

古典に対する偏見としてよくあるのが、「古典には、発表当時は画期的な主張だったかもしれないが、今日では常識化した陳腐なことが書いてある」というものだ。本書を読めば、そうした思い込みがいかに間違っているかが分かるだろう。

本書は、最初から最後まで極論のオンパレードである。「真実を見通す力を持ったのは哲学者(科学者)だけだ。だから国家は哲学者(科学者)が統治すべきだ」とか、「誰もが家族のように仲良くなれるよう、赤ん坊を肉親から引き離し、誰が誰の子供だか分らないようにすべきだ」とか、「フィクションの価値はもっぱら社会に与える影響の観点から評価されるべきだ。だから青少年に有害なフィクションは徹底的に取り締まるべきだ」とか、ともかく過激な主張が続く。もし誰かが同じ主張を今ブログに書いたら、炎上しそうなことばかりだ。約2400年前に書かれた本書だが、その論争性は当時も今も変わらない。だからこその古典なのだろう。

なお、本書を読む際は、「古典は一文一文を熟読吟味しなければならない」という思い込みも捨てるようにしたい。大部なので、そんなことをしたら途中で疲れてしまうだろう。少なくとも初読時は、小説のようにサラサラと読み進めたらよいと思う。幸い、藤沢令夫の訳は大変読みやすい。

Friday, September 26, 2008

ブックリスト

1 科学哲学/分析哲学/言語哲学/論理学

1.1 国外

◎ラッセル「哲学入門」「論理的原子論の哲学」「西洋哲学史」
◎ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」「セレクション」「講義」
◎ポパー「科学的発見の論理」「開かれた社会とその敵」
クワイン「論理的観点から」「こころと対象」
クリプキ「名指しと必然性」「ヴィトゲンシュタインのパラドックス」

1.2 国内

◎飯田隆「言語哲学大全Ⅰ~Ⅳ」「ヴィトゲンシュタイン」「哲学の歴史11」
◎野矢茂樹「論理学」「論理哲学論考を読む」「心と他者」
小野寛晰「情報科学における論理」
◎戸田山和久「科学哲学の冒険」「知識の哲学」「論理学を作る」
◎伊勢田哲治「疑似科学と科学の哲学」「動物からの倫理学入門」「認識論を社会化する」
◎黒田亘「経験と言語」「知識と行為」「行為と規範」

2 実定法学

◎平野龍一「刑法概説」「刑法ⅠⅡ」「刑法の基礎」
植松正「刑法学教室」
◎道垣内弘人「ゼミナール民法入門」「担保物権法」
中山信弘「著作権法」
白石忠志「独禁法講義」
道垣内正人「ポイント国際私法」

3 ミクロ経済学/ゲーム理論/法と経済学/社会的選択

グレゴリー・マンキュー「マンキュー経済学」「マクロ経済学」
渡辺隆裕「ゼミナールゲーム理論入門」
小林秀之・神田秀樹「『法と経済学』入門」
梶井厚志・松井彰彦「ミクロ経済学-戦略的アプローチ」
柳川範之「契約と組織の経済学」
柳川範之「法と企業行動の経済分析」
矢野誠「ミクロ経済学の応用」
横尾真「オークション理論の基礎」
佐伯胖「きめ方の論理―社会的決定理論への招待」

4 政治哲学/倫理学/法哲学/憲法学

◎キムリッカ「現代政治理論」
◎井上達夫「共生の作法」「他者への自由」「法という企て」「普遍の再生」
◎長谷部恭男「比較不能な価値の迷路」「憲法の理性」「憲法学のフロンティア」
阿川尚之「憲法で読むアメリカ(上・下)」
中山竜一「二十世紀の法思想」

5 基本文献(政治哲学)

プラトン「国家」
ホッブズ「リヴァイアサン」
ロック「統治論」
カント「道徳形而上学原論」
ルソー「社会契約論」
ミル「自由論」
マルクス「共産党宣言」
マルクス「資本論」
ハイエク「自由の条件」
ロールズ「正義論」
ノージック「アナーキー・国家・ユートピア」
ドゥオーキン「権利論」
アマルティア・セン「集合的選択と社会的厚生」
ピーター・シンガー「実践の倫理」

6 基本文献(形而上学)

プラトン「テアイテトス」
デカルト「省察」
バークリー「ハイラスとフィロナスの三つの対話」
ヒューム「人間知性研究」
カント「プロレゴメナ」
カント「純粋理性批判」
ショーペンハウアー「意志と表象としての世界」
ラッセル「西洋哲学史」

7 その他著者別
 
◎丸山眞男
小熊英二
◎竹内洋
佐藤卓己
苅部直
小室直樹
中根千枝
川島武宜
苅谷剛彦
◎長尾竜一
井筒俊彦
宮崎市定

8 和文英訳参考書