読書録

Tuesday, September 27, 2005

刑法概説 平野 龍一 (著)

結果無価値論を概観するならコレ。

「わかりやすい」解説書を書くのは簡単である。具体例や図解を散りばめつつ、長々と説明すればよい。「コンパクトな」解説書を書くのも難しくない。レジュメの項目を接続詞で繋いだようなものを作ればよい。しかしふたつの要請を同時に充たす解説書を書くとなると、これは至難の業である。著者の文章力が問われるからだ。

本書は、我が国における結果無価値論の主唱者であった故平野龍一博士が、学部での講義を念頭に置いて書いた概説書である。わずか三百頁程度の紙幅の中で、刑法総論・各論の主要な問題を、驚くほどわかりやすく解説している。短い表現で事柄の本質を適格に言い表す著者の卓越した文章力には脱帽である。

初版以来一度も改訂されていないので、最近の刑法の改正(現代語化を含む)には全く対応していないが、刑法総論・各論の双方を結果無価値論の立場から一貫して解説した本書の価値は今後も変わらないだろう。

英語口―英文法ができると英会話ができる (初級編1) 市橋 敬三 (著)

「中学英語で…」との比較。

私は著者の「中学英語で言いたいことが24時間話せる」という本を愛用しています。著者はいろいろなタイトルであちこちの出版社から本を出していますが、基本的に中身はどれも似たりよったりです。このため、私は今回も手を出すつもりはなかったのですが、キャッチーなタイトルと出版社の熱心なマーケティングを見ているうちに、好奇心に負けついつい購入してしまいました。

著者の一連の著作に共通する特徴については、「中学英語で…」のレビューに書いたのでそちらを参照していただくとして、ここでは「中学英語で…」と比較した場合の本書の特色について書きたいと思います。

「中学英語で…」と比較して、本書の方が優れていると感じたのは、次の3点です。

○レイアウトが見やすい。見開き2ページ完結で、左に日本語、右に英文、下に注釈という形になるよう工夫されている。
○CDのクオリティが高い。男女の吹き込み者が交替で、明瞭かつ感情豊かに読み上げている。
○各単元の例文数が7つずつで統一されている。

他方、どちらが優れているとも言えない、使う人のニーズによると感じたのは次の3点です。

○CDの録音内容が「中学英語で…」では英語のみだが、本書では「日→英」の順番で日本語と英語の双方が入っている。
○文法事項の解説は巻末にまとめて掲載されている。
○例文の収録数は「中学英語で…」の約半分。「中学英語で…」では上巻・下巻それぞれ約800文収録されているが、本書は1・2巻合計で125×7=875文。

なお、本書はサイズがやや大きく(A5版)、持ち運びには若干不便です。この点では「中学英語で…」の方が優れていると感じました。

結論としては、既に著者の他の本で勉強している人が途中でわざわざ本書に乗り換える必要はありませんが、これから著者の勧める方法で勉強してみたいという人や、著者の他の本をすっかりマスターしてしまい、新しい本にも取り組んでみたいという人は、本書を使ってみるのもよいでしょう。

余談ですが、著者は今から約20年ほど前に「話すための英文法」という大ベストセラーを書きましたが、その後は出版社のマーケティング力不足もありヒット作に恵まれませんでした。そんな著者ですが、ここ数年インターネットを中心にじわじわと人気が上がってきています。そんな中、果たして今回本書で一気にブレイクなるか!?往年の市橋ファンとしては気になるところです。

Tuesday, September 20, 2005

ディジタル著作権 名和 小太郎 (著)

良い本です。

この分野の本は、海外の制度(しかも大抵はアメリカ)を紹介しただけだったり、勝手な思い込みから大風呂敷を広げていたり、総花的に問題を拾っただけだったり、となかなか良書が少ないのですが、本書は違います。デジタル化、ネットワーク化が進展する中での著作権制度の課題を、法律、判例、技術の正確な理解に基づきながら、独自の視点から冷静に分析しています。筆致が柔らかで文章が読みやすいのも好感が持てます。

Saturday, September 17, 2005

Harry Potter and the Sorcerer's Stone J. K. Rowling (著)

遅ればせながら…

遅ればせながら読んでみました。流石ミリオンセラーだけあって、良く出来ています。特に中盤以降は一気に読ませます。「欧米では子供しか読まないよ」なんてしたり顔で言う人もいますが、それは嘘。欧米でも大勢の大人が読んでます。気にせず楽しみましょう。

「魔法の名前が出てきたりするので、英語で読むのは辛いかも」と思う人もいるかもしれませんが、そんなに心配はいらないと思います。目安としては、最初20ページくらいを辞書無しで読んでみて、だいたいの筋が追えるようであれば大丈夫でしょう。

なお、洋書を読んだ経験の少ない人の場合、新たな登場人物が出てくるたびに表紙の裏にでも名前と役柄をメモしておくようにすると、後で混乱せずに済みます。

Thursday, September 15, 2005

著作権法の解説 法律解説シリーズ E6 千野 直邦 (著), 尾中 普子 (著)

気軽に読める入門書。

薄いので数日で読み終わります。それでいて必要最小限の事項は網羅しているので、とりあえず著作権法の全体像を知りたい、という人に最適です。具体的事例に即して解説してあるので分かりやすく、条文を掲載してあるので六法をめくる手間も要りません。コストパフォーマンスに優れた一冊です。ただ、イラストは好き嫌いが分かれるかも知れません。

本書は第5版です。出版社のホームページによると、最近の改正を盛り込んだ第6版は本年10月に発売予定とのこと。それまで買い控えるのも手でしょうが、この値段ですし、2冊買っても損した気分にはならないでしょう。

Sunday, September 04, 2005

ゼミナール民法入門 道垣内 弘人 (著)

ハイレベルな入門書。

本書は「民法入門」というタイトルではあるが、なかなかハイレベルである。主要な論点に一通り触れてあるほか、最近の学説や立法の動向にも言及している。本書に書いてある程度のことが理解できれば、学部試験は勿論のこと、司法試験以外の各種試験では合格点が取れるだろう。

法律学の概説書は、多くの情報を一冊に盛り込もうとするあまり、レジュメを接続詞で繋いだだけのような無機質なものになりがちである。しかし、本書は内容の豊富さと「読み物」としての面白さを見事に両立しており、軽妙な叙述を楽しんで読み進めることができる。

ただ、本書は全くの初学者にはややレベルが高すぎるかもしれない。これまで一度も民法を学んだことがない人が本書を読んだ場合、概念の洪水に圧倒され、「真意に反する意思表示」の箇所辺りで挫折してしまう可能性が高い。そういう場合は、もっと簡単な他の本(例えば「ファーストステップ民法」(東洋経済新報社刊))を読んでから本書を読み直すとよいだろう。