読書録

Wednesday, October 26, 2005

独禁法講義 白石忠志 (著)

画期的な教科書。

画期的な教科書である。どこが画期的かというと、これまで独禁法典の各違反類型ごとに散逸していた違反要件に関する議論を総合し、「独禁法総論」とでも呼ぶべき分野を提示したからである。刑法各論しかなかったところに独自に刑法総論の体系を構築したようなもの、と言えばいかに画期的なことか分かってもらえるだろうか。他の教科書を読んでサッパリ分からなかったという人も、本書を読めば霧が晴れたように競争政策の体系が理解できるだろう。

これまで盛んに議論されてきた論点を「意味がない」とバッサリ切り捨てていたり、従来の議論の不明晰さに対する苛立ちが行間に読み取れたりするので、独禁法のインナーサークルに属する人には必ずしも面白くないかもしれないが、外側から競争政策の世界を覗いてみたいという人には最適である。

なお、第2版から第3版への改訂に伴い、構成が大きく変更された。第2版では、「競争停止」「他者排除」「優越的地位濫用」という著者が考える反競争的行為の3つのモデルに沿って解説していたのに対し、第3版では「不公正な取引方法」「不当な取引制限」「私的独占」という独禁法典の掲げる3大違反類型に沿って解説している。どちらの方法も一長一短あるので、可能であれば、第2版と第3版の両方を入手して併読すると理解が深まるだろう。

Wednesday, October 19, 2005

判例行政法入門 芝池 義一 (編)

効率的な行政法の学習に。

京都大学系の学者が執筆した行政法の判例集。「判例百選」などのように判例を掲載した後に解説を付すのではなく、基本知識を解説した後に判例を掲載している点に特徴がある。

行政法は、議論のフレームが個々の学者によって異なり、はっきりした通説が確立しているわけでもないので、将来学者を目指すのでもない限り、あまり講学上の議論に深入りしても「労多くして益少なし」という感がある。そうした意味で、判例を中心に勉強するのが最も手堅いと思われるが、他方で全く理論を知らずに判例を読んでも判例の意義が理解できないおそれがある。この点、本書は最低限の基本知識は解説してあるので、初学者の学習素材として最適である。

「入門」というタイトルではあるが、全部で150以上の判例を収録しているので、本書程度の内容が十分に理解できれば、学部試験は勿論のこと、司法試験以外の資格試験では合格点が取れるだろう。他方、全くの初学者にはややレベルが高いので、 そういう人は藤田宙靖「行政法入門」(有斐閣)を読んでから本書に取り組むとスムーズに理解できるだろう。

Sunday, October 16, 2005

行政法入門 藤田 宙靖 (著)

まずはこれから。

学者が書いた自称「入門書」には、実際には読者にかなりの前提知識を要求するものが少なくありませんが、本書は違います。行政法の知識は勿論のこと、法律学についての知識が全く無い人でも理解できるよう配慮されています。意欲があれば高校生でも読了できるでしょう。資格試験等を目指す人も、本書から入れば、間違いありません。

著者は行政法の大家で現役の最高裁判事ですので、内容の正確さは折り紙付です。それでいて語り口は柔らかで親しみやすく、上から見下ろすようなところは全くありません。著者の人柄が伺えます。

累次の改訂により最近の法改正にも対応しています。

Thursday, October 06, 2005

携帯版 英会話とっさのひとこと辞典 巽 一朗 (著), 巽 スカイ・ヘザー (著), Sky Heather Tatsumi (原著)

元祖にしてベスト。

中学英語レベルの基本構文が口をついてスラスラ出てくるようになったら、次のステップは出来るだけ多くの定型表現を覚えることです。そのための教材としてオススメなのが本書です。

本書の最大の特徴は、別売の音声教材の構成です。日本語→ナチュラル・スピードの英語→ゆっくりした英語、という3段階で、使ってみればわかるのですが、これは中級者がシャドーイングをする際に最適の構成です。日本語部分で意味を、ゆっくり英語部分で英語の文を、ナチュラル・スピード部分で英語の音を、それぞれ確認できるからです。本書の発刊後、似たようなコンセプトの書籍(CD付の表現辞典)が何冊も出ましたが、この音声教材の構成という点で、本書がベストだと思います。

全部でCD6枚、収録6時間の大作ですが、全体を3回程度、合計18時間くらいシャドーイングすれば、だいたいの内容は覚えることができるでしょう。

なお、本書は「辞典」というタイトルですが、当然のことながら、全ての表現を網羅している訳ではありません。本当に網羅的な英会話辞典など作れないし、仮に作っても教材としての意味はないでしょう。ですから、「○○という表現が載っていない」という理由で本書を批判するのは的外れです。重要なものからどんどん覚えていくのが正しい学習態度だと思います。

本書の唯一の欠点は、本体2500円、CD4800円という値段です。この点はちょっと看過できないので、値下げへの期待を込めて星4つ。

Wednesday, October 05, 2005

憲法総論 憲法学 芦部 信喜 (著)

戦後憲法学の苦労が分かる。

著者の「憲法」(岩波書店)は法学部生なら一度は手に取る定番であるが、これを読んだ時の私の感想は、憲法学というのは学問というより神父の説法のようなものだなというものであった。結論に至る過程が語られず、高所から教説を授けられるような印象を受けたからだ。一応、理由らしきものは提示されるのだが、それが他の結論を採る可能性を排除するものにはなっておらず、政治哲学や経済学等の他の学問、あるいは刑法学等の他の法分野に比べ、論証が粗雑に感じられた。従順な学生を相手に思ったことを口にしていればいいなんて、憲法学者というのは気楽な稼業だな、とさえ思ったものだ。

だが、本書を読んでみて、憲法学者もそれなりに苦労して自説を構築しているのだと分かった。戦後日本の複雑な政治状況の中で、学問としての中立性・廉潔性を保ち、保革対立に正面から巻き込まれないよう留意しながら、個人の尊重や国民主権といったリベラリズムの基本価値を説いていくことは、決して容易ではない。そうした困難な事業に取り組んできた戦後憲法学の苦労の軌跡が、本書からは伺える。また、著者の「憲法」のある種の「歯切れの悪さ」も、海外の理論を限られた字数で紹介する際にも出来るだけ原文のニュアンスを損なわないようにしようという著者の知的良心の表れであることが、本書を読んで分かった。

勿論、具体的な結論には納得のいかないものも少なくない。例えば、一方でポツダム宣言の受託により「八月革命」が起こり「国体」は変更されたとしつつ、他方で「国柄」は変更されていないから明治憲法下で制定された法律も有効だとするのは、便宜的にすぎるように思える。また、現行憲法の正統性や自衛隊の違憲性を論じるに当たり、「法理論としては」という留保を頻発するのも、やや言い訳めいて見える。

それでも、ある程度以上に知的に敏感である人ならどうしても感じてしまうであろう憲法学の学問性に対する疑念を、(払拭とは言わないまでも)緩和してくれるという意味で、本書は貴重である。

不正競争防止法の解説 井上 健一 (著)

安い、速い、巧い。

値段が格段に安いこと、最近の改正に迅速に対応していること、【設例→条文→解説】という形で巧みに解説していること、の3つの理由でお勧めです。薄いので、1日で読み終わります。専門に勉強する人にはこれ1冊では不十分でしょうが、とりあえず不競法がどんなものか知りたい、という人には最適でしょう。参照条文のフォントがやや大きすぎるのが玉にキズ。