読書録

Sunday, March 06, 2005

ロールズ―『正義論』とその批判者たち チャンドラン クカサス (著), その他

いきなり「正義論」はキツイという人のために。

本書は、1971年に発表されて以来、政治哲学を中心に絶大な衝撃を与え、「ロールズ産業」と揶揄されるほどの様々な反響を呼び起こしたロールズ「正義論」の解説書である。

本書の構成は、第1章が正義論が発表された当時の思想状況と正義論が与えた衝撃について、第2章がロールズが採用した社会契約アプトローチと他の社会契約アプローチの比較、第3章が正義論の概要、第4章が著者らによるその解釈、第5章がリバタリアンからの批判、第6章がコミュニタリアンからの批判、第7章がロールズ自身によるその後の自己批判について、となっている。

本書の長所は、正義論の内容だけでなく、それに対する各方面からの批判が丁寧に紹介されており、正義論を中心に展開された近年の政治哲学の動向が概観できる点である。

他方、本書の短所は、肝心の正義論の説明があまり分かりやすくないことである。これは、本書が初学者だけでなく専門の研究者をも対象としようとした結果、入門書としての性格が中途半端になってしまったためと思われる。入門書としての分かりやすさという点でいえば、Robert Talisseの書いた薄い本の方が上かもしれない。

ともあれ、邦訳も出ている本書は、ロールズ正義論とその周辺事情を概観できるという意味では便利な本である。なお、私は原書で読んだので翻訳の巧拙については判断できない。

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