文系のための数学教室 小島 寛之 (著)
悪くはないが、企画自体にやや無理がある。
著者は数学科を卒業後、予備校等で数学を教えていたが、最近は経済学の研究者として活躍中の人。言うまでもなく予備校は日本の社会で「教える能力」について競争が成立している唯一の場であり、そこで経験を積んだ著者の説明は極めて明快で、門外漢にも理解できるよう良く工夫されている。
ただ、本書のコンセプト自体に若干無理があった感は否めない。理系の人から見れば「文系」は皆同じに見えるかもしれないが、同じ文系でも法学と経済学と哲学と心理学では物の見方や思考方法が全然異なる。本書で著者はなるべく幅広いトピックを取り上げようと努力したようだが、それが裏目に出てやや散漫になっている。
内容を個別に見ると、冒頭の「微分積分読解法」は掴みとしては良い。次の論理の話も悪くない。続く距離空間の話になると、私には理解不能な「数学の美しさ」が強調されてガックリ。その後の民主主義とオプション取引の話は分かりやすくて良い。最後の哲学モドキは正直「?」で、他の章とは明らかに異質な感じ。著者が数学道具主義に反発を覚える気持ちも分からないではないが、そうした「数学の美しさ・楽しさを他人に啓蒙しようとする態度」こそが数学嫌いの人には趣味の押し付けにしか感じられず、反発を生んでいるのだということも理解してほしい。ツールとしての有用性を強調した方が、「文系」の人間にはよほど広く受け入れられるのではないだろうか。
ともあれ、価格分の値打ちは十分にある。週末に一日で読み切る本としては、オススメもできる一冊である。
著者は数学科を卒業後、予備校等で数学を教えていたが、最近は経済学の研究者として活躍中の人。言うまでもなく予備校は日本の社会で「教える能力」について競争が成立している唯一の場であり、そこで経験を積んだ著者の説明は極めて明快で、門外漢にも理解できるよう良く工夫されている。
ただ、本書のコンセプト自体に若干無理があった感は否めない。理系の人から見れば「文系」は皆同じに見えるかもしれないが、同じ文系でも法学と経済学と哲学と心理学では物の見方や思考方法が全然異なる。本書で著者はなるべく幅広いトピックを取り上げようと努力したようだが、それが裏目に出てやや散漫になっている。
内容を個別に見ると、冒頭の「微分積分読解法」は掴みとしては良い。次の論理の話も悪くない。続く距離空間の話になると、私には理解不能な「数学の美しさ」が強調されてガックリ。その後の民主主義とオプション取引の話は分かりやすくて良い。最後の哲学モドキは正直「?」で、他の章とは明らかに異質な感じ。著者が数学道具主義に反発を覚える気持ちも分からないではないが、そうした「数学の美しさ・楽しさを他人に啓蒙しようとする態度」こそが数学嫌いの人には趣味の押し付けにしか感じられず、反発を生んでいるのだということも理解してほしい。ツールとしての有用性を強調した方が、「文系」の人間にはよほど広く受け入れられるのではないだろうか。
ともあれ、価格分の値打ちは十分にある。週末に一日で読み切る本としては、オススメもできる一冊である。
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