読書録

Sunday, January 23, 2005

Andrew Lloyd Webber's The Phantom of the Opera

ファントムの悲しみが伝わらない。

この映画の致命的な欠点は、ファントムの苦悩や悲しみが全くと言ってよいほど表現できていないことである。ジェラルド・パトラー演じるファントムは、あまりに男性的で、荒々しく、直接的である。端的に言えば、ただのサイコ野郎である。この映画を見てファントムに心から同情する人は、おそらく皆無だろう。そしてそのことは、美しい音楽や鮮やかな映像効果にもかかわらず、この映画が駄作であることを意味している。

私は数年前ブロードウェイでオペラ座の怪人のミュージカルを見て、ファントムの悲しみに心打たれた。作品が終わった時、私は自分の心情を劇中のファントムに完全に重ね合わせていた。なるほど、ミュージカルにおいてもファントムはサイコ野郎である。ストーカーである。しかし、決して「ただの」サイコ野郎ではない。繊細で、人間的で、人一倍の優しさを持ったサイコ野郎である。クリスティーヌを心から愛していながら、愛情を屈折した形でしか表現できない。容姿に対するコンプレックスから姿を表すことすら出来ず、声でしかコミュニケートできない。そんな不器用なファントムの姿が、この映画からは全く伝わらない。ファントムがクリスティーヌに初めて姿を現すとき、彼があんなに堂々としているはずがないのだ。あんなに積極的になれるはずがないのだ。あの場面でのファントムは、現代風に言えば、憧れのアイドルと一日デートをしているオタク少年のようなものなのだから。

あまりこういう言い方は好きではないのだが、この映画を見て「オペラ座の怪人」を知ったとは思わないでほしい。是非ともいつの日かミュージカルで見てほしい。

参考までに、アメリカのヤフーでの評価をリンクしておく。
http://movies.yahoo.com/shop?d=hv&cf=info&id=1800385821

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