読書録

Sunday, February 06, 2005

Political Philosophy: A Very Short Introduction (Very Short Introductions) David Miller (著)

濃密な政治哲学入門。

Oxford出版から刊行されているVery Short Introductionシリーズの一冊。同シリーズは、歴史、哲学、宗教、科学、人文の各分野について英米の一流の学者が一般向けに解説するもので、岩波書店からも「1冊で分かる」シリーズという名前で邦訳が順次刊行されているが、本書の邦訳は未刊。

著者はOxford大学の教授で、政治哲学界の重鎮。「国民性論」や「社会正義の原理」等の著作がある。本書は、国家の必要性、民主主義、リベラリズムと国家による介入の限界、正議論、フェミニズムと多文化主義、国民国家と国際正義といった政治哲学の主要論点について解説したものだが、著者も認めるとおり中立的な概説ではなく、著者自身の主張が各所で前面に出ている。とりわけ、著者の著作がある社会正義論や国民国家論については、事実上、著者の思想への入門書なっている。とはいえ、他説の内容も分かりやすく解説されているので、政治哲学全般の入門書としての実用性にも問題ない。また、非中立的叙述の効用として、各章が有機的に関連し、読了すると全体として一つの体系が浮かび上がるようになっている。

全体で130ページ程度の小著だが、(文字が小さいせいもあるが)密度は極めて濃く、精読に値する良書である。英語は日本人にとって平易とまでは言い難いが、格調高い名文。大きさは日本の新書とちょうど同じくらいなので、ポケットに入れて持ち運べる。値段も洋書にしては手ごろ。Very Short Introductionシリーズに共通することだが、装丁が美しい。

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